百日咳と聞くと、多くの方が子どもの病気というイメージを持つかもしれません。確かに、かつては乳幼児を中心に流行していましたが、近年、ワクチンの効果が時間とともに低下することなどから、大人(特に青年期以降)の百日咳患者が増加傾向にあります。大人の百日咳は、子どものような典型的な症状が現れにくく、診断が遅れたり、単なる長引く風邪と見過ごされたりすることがあるため注意が必要です。大人の百日咳の最も特徴的な症状は、長く続く頑固な咳です。初期には、普通の風邪のような咳や鼻水、微熱といった症状で始まることが多いですが、次第に咳の回数が増え、激しくなり、一度咳き込むとなかなか止まらない「発作性の咳(痙咳発作:けいがいほっさ)」が見られるようになります。この咳は、夜間や早朝に悪化する傾向があり、息を吸い込む時に「ヒュー」という笛のような音(笛声:てきせい、whoop:ウープ)を伴うこともありますが、大人では典型的でないことも少なくありません。咳の発作がひどいと、顔面が紅潮したり、目が充血したり、嘔吐したり、あるいは肋骨を骨折したりすることもあります。子どもの百日咳では、特徴的な「レプリーゼ」と呼ばれる短い咳が連続して起こり、最後に息を吸い込む時に笛声を伴う咳発作が見られますが、大人の場合は、このような典型的な咳発作が見られず、単に長引くしつこい咳だけが続くことも多いのです。そのため、「風邪が治りにくい」「咳だけが残っている」といった認識で、医療機関を受診せずに過ごしてしまったり、受診しても百日咳と診断されなかったりするケースがあります。しかし、大人の百日咳は、咳によって体力を消耗し、日常生活に支障をきたすだけでなく、周囲の人(特に、まだ免疫が十分でない乳幼児)への感染源となる可能性があるため、早期の正しい診断と適切な治療が重要です。