手掌多汗症の治療は、症状の程度や日常生活への支障度、そして患者さんの希望などを考慮して、いくつかの選択肢があります。治療法は、大きく分けて保存的治療と外科的治療があります。まず、保存的治療として一般的に最初に行われるのが、「外用薬療法」です。主に塩化アルミニウム溶液が用いられます。これは、汗腺の出口を塞ぐことで発汗を抑える効果があり、就寝前に手のひらに塗布し、翌朝洗い流すという方法で使われます。効果には個人差があり、皮膚への刺激感やかぶれといった副作用が出ることがあります。次に、「イオントフォレーシス療法」です。これは、水道水を浸したトレーに手のひらを入れ、そこに微弱な直流電流を流すことで、汗腺の働きを抑制する治療法です。週に数回から始め、効果が出てきたら徐々に間隔を空けていきます。医療機関で行うほか、専用の機器を購入して自宅で行うことも可能です。比較的安全性の高い治療法ですが、効果が出るまでに時間がかかったり、定期的に続ける必要があったりします。また、「ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)」も有効な治療法の一つです。これは、手のひらにボツリヌス毒素を注射することで、汗腺への神経伝達をブロックし、発汗を強力に抑える治療法です。効果は通常、数ヶ月から半年程度持続し、繰り返し治療を受けることが可能です。注射時の痛みが伴いますが、効果が高いのが特徴です。内服薬としては、抗コリン薬が処方されることがあります。これは、汗腺の活動を抑える作用がありますが、口の渇きや便秘、目のかすみといった副作用が現れることがあるため、使用には注意が必要です。これらの保存的治療で十分な効果が得られない場合や、症状が非常に重く、日常生活への支障が大きい場合には、「外科的治療(胸腔鏡下交感神経遮断術:ETS)」が検討されることがあります。これは、胸腔鏡を用いて、手のひらの発汗を支配する交感神経の一部を切断または焼灼する手術です。発汗を止める効果は非常に高いですが、代償性発汗(手の汗は止まるが、代わりに背中や胸、太ももなど他の部位から大量の汗が出るようになる)という副作用が起こる可能性があり、手術の適応は慎重に判断されます。