後頭部や首の付け根の痛みが長期間続くものの、整形外科や神経内科で検査をしても、特に明らかな器質的な異常が見つからない…。そのような場合、その痛みの背景には、精神的なストレスや自律神経の乱れが関与している「心因性疼痛」の可能性が考えられます。心因性疼痛は、決して「気のせい」や「怠け」ではなく、実際に本人がつらい痛みを感じている状態です。ストレスがどのようにして痛みを引き起こすのでしょうか。強いストレスや慢性的な不安状態は、自律神経のバランスを崩しやすくなります。自律神経は、血管の収縮や拡張、筋肉の緊張などをコントロールしていますが、そのバランスが乱れると、首や肩、背中の筋肉が過度に緊張し、血行が悪くなります。その結果、筋肉内に疲労物質や発痛物質が溜まりやすくなり、痛みやこり、重だるさといった症状が現れるのです。また、ストレスは、脳内で痛みを抑制する神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)の働きを低下させることが知られています。これにより、通常では感じないような弱い刺激でも痛みとして認識されたり、一度感じた痛みが長引いたりしやすくなります。さらに、痛みに対する不安や恐怖感が強くなると、痛みに意識が集中し、症状をより強く感じてしまうという悪循環に陥ることもあります。心因性の後頭部や首の付け根の痛みの特徴としては、痛みの部位や強さが日によって変動したり、特定のストレス状況下で悪化したりすることが挙げられます。また、頭痛、めまい、不眠、動悸、食欲不振、気分の落ち込み、不安感といった他の心身の不調を伴うことも少なくありません。このような心因性の痛みが疑われる場合、相談先として心療内科や精神科が適切です。これらの科では、詳しい問診を通じて、患者さんのストレス状況や心理状態、生活環境などを把握し、心因性の要因がどの程度関与しているかを評価します。治療としては、抗不安薬や抗うつ薬といった薬物療法と並行して、カウンセリングや認知行動療法などの精神療法、自律神経のバランスを整えるためのリラクセーション法(深呼吸や瞑想など)や、生活習慣の改善指導などが行われます。