手掌多汗症の症状は、精神的な状態と深く関連していることがよく知られています。緊張したり、不安を感じたり、ストレスがかかったりすると、手のひらからドッと汗が噴き出すという経験は、手掌多汗症に悩む多くの方に共通するものです。この「精神的な汗」のメカニズムと、手掌多汗症との関係性について理解しておきましょう。私たちの体には、自律神経という、意思とは関係なく体の機能をコントロールしている神経系があります。自律神経には、活動モードの時に働く「交感神経」と、リラックスモードの時に働く「副交感神経」があり、これらがバランスを取りながら体の状態を調節しています。汗を出す汗腺(エクリン汗腺)は、主に交感神経によって支配されています。精神的な緊張や不安、興奮、ストレスといった刺激は、交感神経の活動を活発にします。交感神経が活発になると、汗腺が刺激され、発汗が促されるのです。これは、誰にでも起こりうる生理的な反応であり、例えば、人前でスピーチをする時や、試験を受ける時などに手に汗を握るのは、このメカニズムによるものです。しかし、手掌多汗症の人の場合、この交感神経の反応が通常よりも過敏であったり、過剰であったりすると考えられています。そのため、健常な人であればそれほど汗をかかないような状況でも、大量の汗をかいてしまったり、あるいは常に交感神経が優位な状態が続き、何もしていなくても手のひらから汗が止まらなくなったりするのです。さらに、手掌多汗症の人は、「また汗をかいてしまうのではないか」「汗で相手に不快な思いをさせてしまうのではないか」といった予期不安や恐怖感を抱きやすく、その不安感がさらに交感神経を刺激し、発汗を悪化させるという悪循環(「汗の悪循環」)に陥りやすい傾向があります。この悪循環を断ち切るためには、医療機関での適切な治療(外用薬、イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素注射など)によって物理的に発汗を抑えることと同時に、ストレスマネジメントやリラクセーション法、場合によっては認知行動療法といった心理的なアプローチも有効となることがあります。