風邪や気管支炎などで医療機関を受診し、抗生物質(抗菌薬)を処方されたにもかかわらず、なかなか咳が止まらない…。そんな経験はありませんか。抗生物質は細菌感染症に対して効果を発揮する薬ですが、咳の原因によっては効果が期待できない、あるいは別の問題が隠れている可能性も考えられます。まず、最も一般的な理由は、咳の原因が細菌感染ではない場合です。咳の原因の多くは、実はウイルス感染によるものです。例えば、一般的な風邪(感冒)やインフルエンザ、RSウイルス感染症などはウイルスが原因であり、抗生物質はこれらのウイルスには全く効果がありません。ウイルス感染の場合、咳は体の防御反応の一つであり、通常は自然に軽快していきます。対症療法として咳止めなどが処方されることはありますが、抗生物質は不要です。次に、抗生物質を処方されたものの、その細菌に対して効果のない種類の抗生物質であったり、あるいは薬剤耐性菌(薬が効きにくい細菌)による感染であったりする可能性も考えられます。この場合は、医師が再度原因菌を特定し、適切な抗生物質に変更する必要があります。また、咳の原因が細菌感染であっても、抗生物質が効果を発揮し始めるまでにはある程度の時間がかかります。服用開始後すぐに咳が劇的に改善するわけではなく、数日間は症状が続くことがあります。さらに、感染症が治った後も、気道の粘膜が過敏な状態が続き、咳だけが長引く「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」という状態になることもあります。この場合、抗生物質を追加しても効果はなく、咳止めや気管支拡張薬などによる対症療法が中心となります。そして、咳の原因が感染症以外の病気である可能性も考慮しなければなりません。例えば、咳喘息、アトピー咳嗽、逆流性食道炎、あるいは稀ですが肺がんや結核なども、長引く咳の原因となります。これらの場合は、それぞれの病気に対応した専門的な治療が必要です。抗生物質を飲んでも咳が止まらない場合は、自己判断せずに、必ず処方した医師に相談し、原因を再評価してもらうことが大切です。
抗生物質を飲んでも咳が止まらないのはなぜ?