抗生物質(抗菌薬)を処方されたにもかかわらず、咳がなかなか止まらない場合、その原因となっている細菌が、一般的な抗生物質では効果が出にくい特殊なタイプである可能性も考えられます。代表的なものに、「マイコプラズマ肺炎」と「百日咳」があります。まず、マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマという細菌の一種によって引き起こされる肺炎です。一般的な細菌とは異なり、細胞壁を持たないという特徴があるため、細胞壁の合成を阻害するタイプの抗生物質(例えば、ペニシリン系やセフェム系など)は効果がありません。マイコプラズマ肺炎の症状は、乾いた頑固な咳が長く続くのが特徴で、発熱や頭痛、倦怠感などを伴うこともあります。痰は少ないか、あっても粘り気のある白い痰が多いと言われています。診断は、胸部レントゲン検査やCT検査、血液検査(抗体価測定など)、あるいは咽頭拭い液を用いた迅速検査などで行われます。治療には、マクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系といった、マイコプラズマに有効な抗生物質が用いられます。次に、百日咳は、百日咳菌という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。特に乳幼児に重症化しやすい病気ですが、大人もかかることがあります。大人の百日咳は、子どものような典型的な咳発作(レプリーゼや笛声)が見られにくく、単に長引く頑固な咳だけが続くことも多いです。一度咳き込むとなかなか止まらず、嘔吐を伴うこともあります。百日咳菌に対しても、マクロライド系の抗生物質が有効ですが、咳が出始めてから時間が経ってしまっていると、咳症状そのものを劇的に改善させる効果は限定的です。ただし、菌の排出を抑え、周囲への感染を防ぐ目的で投与されます。これらのように、抗生物質が効きにくい感染症も存在します。もし、処方された抗生物質を服用しても咳が改善しない場合は、自己判断せずに、必ず再度医師に相談し、原因菌の再評価や、適切な薬剤への変更などを検討してもらうことが大切です。